「最近、若手社員が定着しない」
「相談しやすい職場を作りたい」
「メンタル不調による休職や離職を防ぎたい」
そのような悩みを抱える企業は少なくありません。
特に中小企業では、一人の離職が現場へ与える影響が大きく、採用コストや教育コストの増加にもつながります。
こうした課題への対策として注目されているのが「ラインケア」です。
厚生労働省の「こころの耳」でも、職場のメンタルヘルス対策の重要な柱として位置づけられています。
また近年では、管理職だけに頼るのではなく、先輩社員が新人を支援する「バイザー制度」を導入し、大きな成果を出している企業もあります。
実際に、ある企業では3年以内離職率が約50%から1桁台まで改善した事例もあります。
本記事では、ラインケアの基本から、バイザー制度の活用方法、中小企業でも実践しやすい仕組みづくりについて解説します。

ラインケアとは何か
メンタルヘルス対策というと、ストレスチェックやカウンセリングを思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし厚生労働省では、職場のメンタルヘルス対策を4つのケアに分類しています。
- セルフケア
- ラインケア
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外資源によるケア
その中でも中小企業で特に重要なのがラインケアです。
ラインケアとは、管理監督者が部下の変化に気付き、働きやすい職場環境を整える取り組みを指します。
例えば、
- 表情が暗くなった
- 遅刻や欠勤が増えた
- ミスが増えた
- 周囲との会話が減った
などの変化に気付くこともラインケアの一つです。
また、単に問題を見つけるだけではありません。
日頃から相談しやすい関係を作ることや、業務量を調整することも重要な役割です。
ただし現実には、管理職だけで全てを担うのは簡単ではありません。
特に中小企業では、
- プレイヤーとしての業務
- 現場管理
- 顧客対応
を同時に行っているケースも多く、部下のフォローまで十分に手が回らないことがあります。
そこで注目されるのがバイザー制度です。
バイザー制度が離職率改善につながる理由
バイザー制度とは、新入社員や若手社員に対して、年齢や経験が近い先輩社員がサポート役となる仕組みです。
企業によって名称は異なりますが、
- バイザー制度
- メンター制度
- ブラザーシスター制度
などが代表的です。
特に若手社員は、「上司には相談しにくい」と感じることがあります。
評価権限を持つ上司には本音を言いにくいケースも少なくありません。
その結果、
- 悩みを抱え込む
- 孤立する
- 離職する
という流れが起こることがあります。
一方でバイザーがいると、日常的な相談や人間関係の悩み、仕事の不安などを話しやすくなります。
実際に離職率改善へ成功した企業では、「相談できる人がいる安心感」が定着率向上に大きく影響したとされています。
ただし、ここで重要なのは、
バイザーを置けば成功するわけではない
という点です。
後半では、
- 良いバイザーの選び方
- バイザーへの教育
- バイザーを支える仕組み
- 中小企業で実践できるラインケア
について詳しく解説します。

良いバイザーは「仕事ができる人」ではなく「関われる人」
バイザー制度を導入する際、多くの企業が陥りやすいのが「仕事ができる人」をバイザーに選ぶことです。
もちろん業務知識や経験は重要ですが、それだけで良いバイザーになれるわけではありません。
むしろ大切なのは、
- 相手の話を最後まで聞ける
- 否定せずに受け止められる
- 困っている変化に気付ける
- 必要に応じて上司へつなげられる
といった姿勢です。
若手社員が求めているのは、必ずしも正解を教えてくれる人ではありません。
「相談しても大丈夫」と思える相手がいることが大切です。
また、年齢が近いことや、同じ部署で働いた経験があることも安心感につながります。
一方で、指導熱心なあまり、
「自分のやり方を押し付ける」
「精神論で乗り切らせる」
「相談内容を勝手に広める」
といった対応は逆効果になることがあります。
バイザーは管理者ではなく、支援者という立場であることを理解しておく必要があります。
バイザー自身を支える仕組みも必要
バイザー制度がうまくいかない企業では、バイザーへ役割だけを与えて終わっているケースがあります。
しかし実際には、バイザー自身も悩みを抱えます。
「新人との関わり方が分からない」「相談を受けたがどう対応すれば良いか分からない」
「メンタル不調のサインに気付いたが、自分だけで抱えてしまう」
こうした状況になると、バイザー自身が疲弊してしまいます。
そのため企業側は、
- 定期的な振り返りの場を設ける
- 管理職へ相談できる体制を作る
- メンタルヘルスの基礎教育を行う
- 一人で抱え込ませない
といった支援を行う必要があります。
厚生労働省の「こころの耳」でも、ラインケアは一人で行うものではなく、組織全体で支えることが重要とされています。
バイザー制度は、バイザーだけに任せる仕組みではなく、会社全体で若手を育てる仕組みとして考えることが大切です。
- キャリア観
- コミュニケーションの取り方
も世代によって異なります。
管理職が過去の成功体験だけで部下を指導すると、
「話を聞いてもらえない」
「理解してもらえない」
と感じさせてしまうことがあります。
そのため、
- 傾聴
- 面談技法
- メンタル不調のサイン
- ハラスメント防止
- 適切な声掛け
などを学ぶ機会を設けることも重要です。
管理職へのラインケア教育も欠かせない
バイザー制度を導入しても、管理職の理解が不足していると十分な効果は期待できません。
なぜなら、最終的に職場環境を整える役割は管理職が担うからです。
例えば若手社員がバイザーへ相談し、
「業務量が多くてつらい」「人間関係に悩んでいる」
という話が出たとしても、組織的な改善が必要な場合は管理職の対応が不可欠です。
ラインケアは特別なスキルではありません。
日常のコミュニケーションを少し改善するだけでも、職場の雰囲気は大きく変わります。
管理職・バイザー・社員それぞれが役割を理解することで、相談しやすい職場づくりにつながります。
セルフケアに関してはこちらを良ければお読みください。
https://kenko-stretch.com/mental-selfcare/

バイザー制度以外にも有効なラインケア
ラインケアはバイザー制度だけではありません。
日常の関わり方を少し変えるだけでも、職場環境は大きく変わります。
例えば定期的な1on1ミーティングです。業務報告だけではなく、
「最近どう?」
「困っていることはない?」
といった会話を行うことで、小さな変化に気付きやすくなります。
また、朝礼や終礼も活用できます。
業務連絡だけで終わらせるのではなく、体調確認や簡単なコミュニケーションの時間を設けることで、相談しやすい雰囲気づくりにつながります。
さらに、前回の記事で紹介したセルフケアも重要です。
どれだけラインケアを整えても、本人が自分の状態へ気付けなければ早期対応は難しくなります。
セルフケアとラインケアは別々のものではなく、互いに補完し合う関係です。
本人が変化に気付き、周囲も変化に気付く。
その両方がそろうことで、メンタルヘルス対策は機能しやすくなります。
中小企業こそラインケアが重要
中小企業では産業医や専門スタッフを十分に配置できないこともあります。
だからこそ、現場で働く人同士の関わり方が重要になります。
実際に離職率改善へ成功している企業を見ると、特別な制度を導入しているわけではありません。
日頃から声を掛ける。相談しやすい関係を作る。一人にしない。
こうした基本的な取り組みを継続しています。
特に人材確保が難しい時代だからこそ、採用だけでなく定着へ目を向ける必要があります。
社員が安心して働ける環境は、結果として企業の生産性向上や組織力向上にもつながります。
ラインケアは単なるメンタルヘルス対策ではありません。
社員が長く活躍できる職場を作るための経営施策でもあるのです。
近年はメンタル不調による休職だけでなく、「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる状態も注目されています。
出勤はしているものの、仕事への意欲が低下し、本来の力を発揮できていない状態です。
こうした変化も日頃のコミュニケーションがある職場ほど気付きやすく、早期対応につながります。
バイザー制度や1on1、日常的なコミュニケーションなど、自社で取り組めそうなことから始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料
厚生労働省 こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」相談窓口
https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/