「この人は若いから、まだ大きな仕事は任せられない」
「小さい子どもがいるから、残業や出張は無理だろう」
「この人は営業より事務の方が向いていそう」
職場で、こんな判断をしたことはありませんか?
もしかすると、それは「アンコンシャス・バイアス」かもしれません。
アンコンシャス・バイアスとは、日本語では「無意識の思い込み」などと表現されます。
性別や年齢、家庭環境、学歴、役職など、本人の能力とは直接関係しない属性から、知らず知らずのうちに相手を判断してしまうことがあります。厚生労働省も、職場におけるアンコンシャス・バイアスについて、採用や評価、人間関係などに影響するものとして紹介しています。
もちろん、相手への配慮は必要です。子育て中の社員に無理な残業を押し付けないことも大切ですし、体力面を考えて仕事を調整することも必要でしょう。
しかし、「きっとできないだろう」と本人に確認せず決めてしまうこととは話が違います。
大切なのは、その人の属性ではなく、その人自身を見ることです。
アンコンシャス・バイアスは誰にでもある
アンコンシャス・バイアスという言葉を聞くと、「偏見を持っている人の問題」と思うかもしれません。
しかし、そうではありません。アンコンシャス・バイアスは、誰にでも起こり得るものです。
人間の脳は、毎日ものすごい量の情報を処理しています。
目の前にいる人の年齢、服装、表情、話し方、過去の経験、これまでの知識など、すべてを一つひとつ細かく分析してから判断していては、脳に大きな負担がかかります。
そこで脳は、過去の経験や知識を使って、物事を素早く判断します。いわば、「脳のショートカット機能」です。
この機能があることで、私たちは日常生活の中で素早く判断できます。
そのため、アンコンシャス・バイアスそのものを完全になくすことは難しいと考えられています。
内閣府も、アンコンシャス・バイアスは誰にでもあり得るもので、それ自体が良い・悪いというものではないと説明しています。
問題になるのは、無意識の思い込みに気づかないまま、相手への決めつけや行動につなげてしまうことです。
つまり、「アンコンシャス・バイアスを持たない人になる」ことを目指す必要はありません。
それよりも、「自分にも思い込みがあるかもしれない」と気づけることが重要なのです。

「小さい子どもがいるから無理」は本当に本人の考え?
職場では、特に属性から相手の能力や希望を決めつけてしまうことがあります。たとえば、
「小さい子どもがいるから、残業や出張は無理だろう」という判断です。
一見すると、社員への配慮にも見えます。実際、家庭の事情を考慮して勤務時間や出張を調整することは、とても大切です。
しかし、ここで一度考えてみてください。
その人本人に確認しましたか?
本人は、「出張に行きたい」と思っているかもしれません。
「月に1回くらいなら大丈夫」と思っているかもしれません。
反対に、「子どもの事情で今は難しい」と考えているかもしれません。
つまり、本当の答えは本人にしか分かりません。
「子どもがいる」という情報から、「だから出張は無理だろう」と結論を出してしまうと、その人が持っている可能性を最初から閉じてしまうことになります。
これは子育てだけではありません。
「若いから経験がない」
「年齢が高いから新しい仕事は難しい」
「女性だから力仕事は苦手」
「男性だから管理職を目指すだろう」
「この人は人付き合いが苦手そう」
「前に失敗したから、また失敗するだろう」
こうした判断も、本人の実際の能力や希望とは別のところから生まれている可能性があります。
配慮と決めつけは違う
ここで非常に大切なのが、「配慮」と「決めつけ」を分けることです。
配慮とは、相手の状況を考えながら、本人が働きやすいように環境を整えることです。
一方で決めつけは、本人に確認することなく、「きっとこうだろう」と判断してしまうことです。
たとえば、子育て中の社員に対して、「子どもが小さいから出張は無理ですよね?」と会社側が決めるのではなく、
「来月、こういう出張の話があります。家庭の状況もあると思いますが、希望はありますか?」と聞いてみる。
これだけでも大きく変わります。本人が「今回は難しいです」と答えれば、それを尊重すればいい。
「行けます」と答えれば、その可能性を活かせばいい。
重要なのは、会社が本人の可能性を先回りして閉じないことです。
無意識の決めつけが能力を奪ってしまう
アンコンシャス・バイアスの怖いところは、本人に悪意がなくても相手に影響を与えてしまうことです。
「あなたには難しいと思うから、今回は任せない」
「家庭があるから、責任のある仕事はやめておこう」
「若いから、まだ早い」
こうした言葉が繰り返されると、社員はどう感じるでしょうか。最初は、
「気を遣ってくれているのかな」と思うかもしれません。
しかし、それが何度も続けば、「自分には期待されていない」「頑張っても仕事を任せてもらえない」
「どうせ自分には無理だ」という気持ちにつながる可能性があります。
本来なら挑戦できた仕事。伸ばせた能力。本人がやりたかった仕事。
そうした機会が、本人の能力とは関係のない「思い込み」によって失われてしまうかもしれません。
厚生労働省も、アンコンシャス・バイアスが社員の成長機会を奪い、人材の定着や組織全体の生産性を低下させる要因になり得るとしています。これは、人材不足が大きな課題となっている企業にとっても無視できない問題です。

先入観を外すために「一度、本人に聞く」
では、どうすればアンコンシャス・バイアスに振り回されにくくなるのでしょうか。
まず実践してほしいのが、「決める前に聞く」ということです。
「この人はこうだろう」と思った瞬間に、「本当にそうかな?」と一度立ち止まる。そして、本人に確認する。
これだけでも、自分の思い込みに気づくきっかけになります。たとえば、
「出張をお願いしたいけど、子育て中だから難しいかな」と思ったら、
「こういう出張があります。興味はありますか?」と聞いてみる。
「この仕事は若い人には難しいかな」と思ったら、
「この仕事に挑戦してみたいですか?」と聞いてみる。
「この人は管理職をやりたくないだろう」と思ったら、
「今後、どんな仕事に挑戦してみたいですか?」と聞いてみる。
相手の希望を聞くことで、こちらが勝手に作っていた「その人のイメージ」と、本当の本人との違いが見えてきます。
「自分の当たり前」を疑ってみる
もう一つ大切なのが、「自分にとっての当たり前が、相手にとっても当たり前とは限らない」と知っておくことです。
自分が若い頃に、「仕事は何より優先するものだった」としても、今の若い社員が同じ価値観とは限りません。
自分が、「管理職になれるならなりたい」と思っていたとしても、部下が同じように考えているとは限りません。
自分が、「多少の残業なら問題ない」と思っていても、家庭の事情によっては大きな負担になる人もいます。
逆に、「子育て中だから残業は絶対に無理だろう」と考えていた人が、
「繁忙期なら少し残業できます」ということもあります。
だからこそ、相手のことを知るためにはコミュニケーションが必要です。
「最近どう?」という何気ない会話からでも構いません。
仕事で困っていることはないか。やってみたい仕事はないか。今後どうなりたいのか。
そうした話を聞くことで、社員一人ひとりの能力や希望が見えてきます。
アンコンシャス・バイアスはハラスメントにもつながる
無意識の思い込みは、単なる「考え方のクセ」で終わらない場合があります。
思い込みをもとに相手への扱いを変えてしまえば、人間関係の悪化につながります。
さらに、特定の属性を理由に仕事を任せない、評価を下げる、必要以上に仕事を制限するなどの行動が積み重なれば、ハラスメントにつながる可能性もあります。
もちろん、アンコンシャス・バイアスとハラスメントは同じものではありません。しかし、
無意識の思い込み → 決めつけ → 行動 → 相手への不利益
という流れが生まれると、職場の問題につながる可能性があります。
だからこそ、管理職や経営者だけでなく、社員一人ひとりが自分の思い込みに気づくことが大切です。
一人ひとりを見ることが、会社の力を引き出す
企業にとって、人材は大きな財産です。
だからこそ、「この人は〇〇だから」という属性だけで人を判断するのではなく、
「この人には何ができるのか」「何をやってみたいのか」「どんな環境なら力を発揮できるのか」
を見ることが重要です。
もちろん、身体的な事情や家庭環境への配慮は必要です。
しかし、配慮することと、本人の可能性を勝手に決めることは違います。
「あなたはどうしたい?」と聞く。
「何ならできそう?」と一緒に考える。
そして、その人が力を発揮できる環境を作る。これが、個人の能力を最大限に活かす職場づくりにつながります。

まとめ
アンコンシャス・バイアスは、誰にでもあります。
脳が膨大な情報を素早く処理するための「ショートカット」のような働きでもあるため、完全になくすことは簡単ではありません。
だからこそ、「自分にも思い込みがある」と知っておくことが大切です。
「子どもが小さいから出張は無理だろう」
「若いからまだ任せられない」
「年齢が高いから新しいことは難しい」
こうした判断をしたとき、一度立ち止まってみましょう。そして、
「本人に聞いた?」と自分に問いかけてみてください。
配慮は必要です。でも、決めつけは必要ありません。相手のことをしっかり見て、本人の希望や能力を確認する。
そのためには、日頃からコミュニケーションを取ることが欠かせません。
一人ひとりを属性ではなく「一人の人」として見ることができれば、今まで見えていなかった能力や可能性が見つかるかもしれません。
人材不足が叫ばれる今だからこそ、すでにいる社員の力を最大限に引き出すことも、企業にとって重要な健康経営・組織づくりの一つです。
社員が安心して、自分の力を発揮できる。
そんな職場をつくるために、まずは「自分にも思い込みがあるかもしれない」と気づくところから始めてみましょう。
参考リンク
企業ストレッチとは
大阪府松原市を拠点にする企業ストレッチは、
「健康」を「組織の活力」につなげる、企業向けの健康経営をサポートする会社です。
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