近年、「職場のメンタルヘルス」がこれまで以上に注目されています。厚生労働省の調査でも、仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じている労働者は半数を超えており、メンタルヘルス不調による休職や離職は企業にとって大きな課題となっています。
「ストレスは本人の気持ちの問題だから。」
「もっと前向きに考えればいい。」
以前はこのように考えられることもありました。しかし現在では、メンタルヘルスは個人だけの問題ではなく、職場環境や組織の仕組みも大きく影響することが数多くの研究で分かっています。
その考え方を分かりやすく整理したものが、職業性ストレスモデルです。
この考え方を知ることで、「個人の努力だけでは解決できない理由」と「会社が取り組むべきこと」が見えてきます。
職業性ストレスモデルとは?
職業性ストレスモデルとは、アメリカの米国国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health:NIOSH)が提唱している考え方です。
このモデルでは、メンタルヘルス不調は一つの原因だけで起こるのではなく、
「仕事で受けるストレス」
「その人を支える要素」
「個人の特徴」
これらが相互に影響しながら心身の健康状態を決めていると考えます。
つまり、「仕事が忙しいからメンタル不調になる」という単純な話ではありません。
同じ仕事量でも元気に働ける人もいれば、強いストレスを感じる人もいます。
その違いを生み出しているのが、「緩衝要因(ストレスを和らげる要素)」の存在です。

ストレスは「仕事量」だけで決まるわけではない
例えば、納期が迫っている大型プロジェクトを想像してください。AさんとBさんは同じ仕事量です。しかし、
Aさんには
相談しやすい上司がいて、同僚も協力的です。
仕事の裁量もあり、「困ったら相談できる」という安心感があります。
一方でBさんは、
相談できる人がおらず、失敗を責められる雰囲気の職場で働いています。
仕事の進め方も自由がなく、毎日プレッシャーを感じています。
仕事内容は同じでも、ストレスの感じ方は大きく変わります。
これは本人の性格だけではなく、「職場環境」がストレスを増やしたり減らしたりしているためです。
職業性ストレスモデルでは、このような違いを分かりやすく説明しています。

マイナス要因と緩衝要因
職業性ストレスモデルでは、大きく分けて2つの要素が重要になります。
一つ目はマイナス要因(ストレッサー)です。
例えば、
・仕事量が多すぎる
・時間に追われる
・人間関係が悪い
・仕事内容が曖昧
・裁量権が少ない
・長時間労働
・ハラスメント
・役割の不明確さ
このようなものが積み重なると、ストレス反応が強くなります。しかし、ストレスを完全になくすことは現実的ではありません。仕事である以上、適度な負荷は必要だからです。
そこで重要になるのが二つ目の緩衝要因です。
緩衝要因とは、ストレスによる悪影響を和らげる働きを持つものです。
例えば、
・上司からのサポート
・同僚との良好な関係
・家族の支え
・十分な睡眠
・運動習慣
・セルフケア
・相談できる環境
・達成感ややりがい
などが挙げられます。
つまり、「ストレスをゼロにする」のではなく、「ストレスに負けにくい環境をつくる」という考え方が大切なのです。
個人だけでは限界がある
メンタルヘルスというと、「睡眠をしっかり取りましょう」「運動をしましょう」「趣味を持ちましょう」といったセルフケアが紹介されることが多くあります。もちろん、これらは非常に重要です。
実際に厚生労働省でも、セルフケアはメンタルヘルス対策の基本の一つとして位置づけられています。
しかし、セルフケアだけでは解決できないケースも少なくありません。
例えば、
・毎日3時間残業が続いている。
・相談できる上司がいない。
・職場で孤立している。
・ハラスメントを受けている。
こうした状況では、どれだけ睡眠や運動を意識しても根本的な改善は難しいでしょう。
だからこそ職業性ストレスモデルでは、「個人」と「組織」の両方からアプローチすることが重要だとされています。
会社が働きやすい環境を整え、社員自身もセルフケアを身につける。
この両輪がそろって初めて、メンタルヘルス対策は効果を発揮します。
職場ができることは「ストレスを減らすこと」と「支えを増やすこと」
職業性ストレスモデルを職場で活用する際に大切なのは、「社員がストレスに強くなること」だけを目指さないことです。会社ができることは大きく分けると、
「ストレスの原因(マイナス要因)を減らすこと」
そして、
「ストレスを和らげる要因(緩衝要因)を増やすこと」
の2つになります。
例えば、仕事量が特定の社員に集中している場合は業務分担を見直す、役割が曖昧であれば担当範囲を明確にする、相談しづらい雰囲気であれば定期的な面談を実施するなど、職場環境を改善するだけでもストレスは軽減できます。
一方で、ストレスを完全になくすことは現実的ではありません。繁忙期やトラブル対応、新しい業務への挑戦など、ある程度のストレスは仕事にはつきものです。
だからこそ、社員が安心して働ける環境づくりが重要になります。
「困ったら相談できる。」
「失敗しても一緒に改善を考えてくれる。」
「周囲が助けてくれる。」
このような環境は、社員の心理的負担を大きく軽減します。
実際に健康経営優良法人として評価されている企業でも、「働きやすい職場づくり」や「コミュニケーションの活性化」に力を入れている企業が多く見られます。

セルフケアとラインケアは職業性ストレスモデルそのもの
以前の記事でもご紹介したように、厚生労働省ではメンタルヘルス対策として「4つのケア」を推進しています。
その中でも企業が特に取り組みやすいのが、「セルフケア」と「ラインケア」です。
セルフケアとは、社員自身がストレスに気付き、自分で心身の健康を維持するための取り組みです。
例えば、
・十分な睡眠を取る
・適度な運動を行う
・ストレッチやヨガを取り入れる
・趣味やリラックスできる時間を作る
・ストレスサインに早めに気付く
などが挙げられます。
これらは職業性ストレスモデルでいう「緩衝要因」を増やす取り組みと言えます。
一方、ラインケアは管理職やリーダーが行うメンタルヘルス対策です。
日頃から部下の様子を観察し、小さな変化に気付き、必要に応じて声を掛けたり相談につなげたりする役割があります。
また、仕事量や人間関係を調整することもラインケアの重要な役割です。
つまり、セルフケアは個人へのアプローチ、ラインケアは組織からのアプローチであり、この両方がそろうことで職業性ストレスモデルの考え方を実践することができます。
私自身の経験として、就職した際に入社1年目にしんどかった時に相談出来なかった事、
一人暮らしが始まるタイミングで環境変化も多く知らず知らずのうちにストレスが溜まっていた事も相まって
メンタルヘルス不調になる時期がありました。
あの時、相談出来たり、自身で俯瞰して見れる場所を知っていれば…
とは何度も思いましたので、今は働く人がそうならない仕組み作りを行っております。
セルフケアやラインケアについて詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。
離職率50%から1桁へ!?バイザー制度に学ぶラインケアの実践方法
kenko-stretch.com/linecare-advisor/
メンタルヘルスのセルフケア方法とは?今日から一人でできる習慣を解説
kenko-stretch.com/mental-selfcare/
健康経営にも活かせる考え方
健康経営では、「社員が健康になること」だけが目的ではありません。
社員が健康で働き続けられることで、
・生産性向上
・離職率の低下
・採用力の向上
・組織の活性化
・企業価値の向上
などにつながることが期待されています。
そのためには、健康診断や運動イベントだけでは十分とは言えません。職業性ストレスモデルの視点から見ると、働きやすい職場づくりそのものが健康経営の重要な施策になります。
例えば、
・定期的な1on1ミーティングを行う
・管理職へラインケア研修を実施する
・ストレスチェック結果を職場改善へ活用する
・社員同士が相談しやすい仕組みを作る
・ストレッチや運動機会を設ける
・休憩しやすい環境を整える
このような取り組みは、ストレスの原因を減らしながら、緩衝要因を増やすことにつながります。
健康経営は福利厚生ではなく、「会社をより良くする経営戦略」です。
その中で職業性ストレスモデルは、どこを改善すれば社員が働きやすくなるのかを考えるための指標としても活用できます。

まとめ
メンタルヘルス不調は、本人の性格や努力だけで決まるものではありません。
仕事で受けるストレス、職場環境、人間関係、周囲からのサポート、そして個人のセルフケアなど、多くの要素が重なり合って心身の健康に影響を与えています。これが職業性ストレスモデルの基本的な考え方です。
だからこそ企業は、「ストレスを我慢させる」のではなく、「ストレスが大きくなりにくい職場」をつくることが大切です。
社員一人ひとりがセルフケアを身につけ、管理職がラインケアを実践し、会社全体で働きやすい環境を整える。この3つが組み合わさることで、メンタルヘルス対策はより効果的なものになります。
健康経営を進めるうえでも、職業性ストレスモデルは非常に参考になる考え方です。
「社員が頑張る」のではなく、「社員が安心して力を発揮できる環境をつくる」。
その視点を持つことが、これからの企業に求められるメンタルヘルス対策ではないでしょうか。
職業性ストレスについて(コラム6)
https://watlo.jp/787
厚生労働省「こころの耳」
https://kokoro.mhlw.go.jp