最近、「疲れが抜けない」「日中の眠気が強い」と感じていませんか。 それは気合や年齢の問題ではなく、激しい気温差が引き起こす「寒暖差疲労」かもしれません。 放置すれば組織の生産性を大きく損なうこのリスク。理学療法士の視点から、職場と家庭でできる具体的な対策を徹底解説します。
目次
1.なぜ今、寒暖差がビジネスパーソンの敵なのか
2.寒暖差疲労のメカニズム:体の中で何が起きているのか
3.あなたの「寒暖差疲労度」をチェックする
4.職場での防衛策:理学療法士が教える「3つの首」と環境調整
5.家庭での防衛策:最強のリカバリー「入浴」と「睡眠」
6.食事での防衛策:内臓から熱を生み出す栄養学
7.運動での防衛策:自家発電できる体を作る
8.おわりに:寒暖差対策は最強のリスクマネジメント
1.なぜ今、寒暖差がビジネスパーソンの敵なのか
2026年の冬、私たちの働く環境はかつてないほど「温度のバリア」に分断されています。高気密高断熱のオフィス、暖房が効いた電車、そして一歩外に出れば氷点下に近い寒風。私たちは1日のうちに、何度も夏と冬を行き来するような過酷な環境に身を置いています。
この環境変化に適応しようと体が悲鳴を上げている状態、それが「寒暖差疲労」です。
医学的には「気象病」の一種とも捉えられますが、現代社会においては、もはや立派な「職業性ストレス」の一つと言えるでしょう。私が企業の健康経営サポートを行う中でも、冬場のメンタル不調や突発的な体調不良の原因を掘り下げていくと、この寒暖差による自律神経の乱れに行き着くケースが非常に増えています。
今回は、なぜ寒暖差がこれほどまでに私たちのパフォーマンスを削ぐのか、その医学的なメカニズムを解き明かし、明日から実践できる「最強の防衛策」を、衣・食・住、そして運動の観点から網羅的にご紹介します。

2.寒暖差疲労のメカニズム:体の中で何が起きているのか
私たちの体には、ホメオスタシス(恒常性)という機能が備わっています。外の気温が暑くても寒くても、体温を概ね36度から37度前後に保つことができるのは、この機能のおかげです。そして、この体温調節の司令塔となっているのが「自律神経」です。
自律神経は、体を活動モードにする「交感神経」と、リラックスモードにする「副交感神経」の2つから成り立っており、まるでシーソーのようにバランスを取り合っています。
暑いときは、副交感神経が優位になり、血管を広げて熱を放出します。逆に寒いときは、交感神経が優位になり、血管を収縮させて熱を逃がさないようにすると同時に、筋肉を震わせて熱を作り出します。
問題なのは、この切り替えにかかるエネルギー消費量です。
一般的に、気温差が「7度」を超えると、自律神経の切り替え頻度と強度が限界を超え始めると言われています。暖房の効いた25度のオフィスから、5度の屋外へ出る。このとき、気温差は20度にも達します。体は急激に血管を収縮させ、心拍数を上げ、必死に体温を守ろうとします。
このプロセスにおいて、体内のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が大量に消費されます。本来であれば、仕事や思考、あるいは免疫機能の維持に使われるべきエネルギーが、ただ「体温を保つ」という生命維持のためだけに浪費されてしまうのです。
その結果、脳へのエネルギー供給が不足し、集中力の低下、強い眠気、判断力の鈍化が起こります。また、内臓機能への血流も後回しにされるため、胃腸の不調や食欲不振も併発します。これが「なんとなくダルい」「疲れが取れない」という感覚の正体です。
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-031
3.あなたの「寒暖差疲労度」をチェックする
まずはご自身の現状を把握しましょう。以下の項目にいくつ当てはまるか確認してみてください。
1.外出すると顔がほてったり、逆に手足が極端に冷えたりする
2.冬場でも、食事中や移動中に急に汗をかくことがある
3.夜、布団に入っても手足が冷たくてなかなか眠れない
4.最近、寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める
5.胃腸の調子が悪く、便秘や下痢を繰り返している
6.肩こりや頭痛が、以前よりもひどくなっている
7.些細なことでイライラしたり、落ち込んだりする
8.常に体に力が入っているような感覚がある
これらはすべて、自律神経が過剰労働により疲弊しているサインです。3つ以上当てはまる場合は、すでに寒暖差疲労が蓄積している可能性が高いと言えます。
4.職場での防衛策:理学療法士が教える「3つの首」と環境調整
では、具体的な対策に入りましょう。まずは1日の大半を過ごす「職場」での対策です。
理学療法士の視点で最も重要視してほしいのが、血管の走行と筋肉の関係です。
体温調節を効率的に行うためには、皮膚の表面近くを太い血管が通っている部位を重点的にガードする必要があります。それが「首」「手首」「足首」、いわゆる「3つの首」です。
1.首(頚部) 首には、脳へ血液を送る総頸動脈や椎骨動脈といった太い血管が通っています。ここを冷やすことは、脳へ送る血液を冷やすことと同義であり、全身の体感温度を一気に下げてしまいます。 オフィスでは、ハイネックのインナーを着用するか、薄手のストールやネックウォーマーを活用してください。特に、窓際や出入り口付近の席など、冷気が流れ込みやすい場所にいる場合は必須です。
2.手首 手首の動脈は、脈拍を測れるほど皮膚の浅い部分にあります。PC作業中は手首が露出した状態になりやすく、デスクの冷たさが直接伝わってきます。 アームウォーマーや、袖口がしっかりした服を選ぶことで、末端からの冷えを防ぐことができます。指先が出るタイプの手袋であれば、キーボード操作を妨げずに保温が可能です。
3.足首 「頭寒足熱」という言葉がある通り、下半身を温めることは自律神経の安定に不可欠です。足首周りには筋肉や脂肪が少なく、冷えやすい構造になっています。さらに、重力の影響で血流が滞りやすい部位でもあります。 レッグウォーマーの着用や、膝掛けの使用を徹底してください。男性の場合も、ズボンの下にタイツやパッチを着用することを強く推奨します。

次に、環境そのものの調整です。 健康経営の観点からは、オフィスの空調管理は個人の快不快の問題ではなく、生産性管理の課題です。
労働安全衛生法の事務所衛生基準規則では、室温は「17度以上28度以下」、湿度は「40%以上70%以下」になるように努めることとされています。しかし、冬場のオフィスでは、暖房による乾燥が進み、湿度が20%台まで下がっていることも珍しくありません。
乾燥は、体感温度を下げるだけでなく、ウイルスの飛散を助長し、粘膜の防御機能を低下させます。寒暖差疲労で免疫力が落ちているところに、乾燥した空気が加われば、インフルエンザなどの感染症リスクは跳ね上がります。 加湿器の設置はもちろん、濡れタオルを干す、デスクに小型の加湿器を置くなど、湿度40%以上を死守する工夫を凝らしてください。
5.家庭での防衛策:最強のリカバリー「入浴」と「睡眠」
職場でのダメージを回復させるのは、家庭での時間です。ここで最も重要なのが「入浴」です。
シャワーだけで済ませていませんか。寒暖差疲労の回復において、入浴は単なる洗浄行為ではなく、物理療法の一つです。
目的は「強制的な副交感神経への切り替え」です。 寒暖差にさらされた体は、交感神経が優位になり、血管が収縮し、筋肉が強張った状態が続いています。これを解除するには、温熱作用と水圧作用が必要です。
推奨設定: 湯温:38度から40度(少しぬるめ)
時間:10分から15分 水位:全身浴(肩まで浸かる)
42度以上の熱いお湯は、逆に交感神経を刺激してしまい、目が覚めてしまいます。ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、末梢血管が拡張し、深部体温が上がります。そして、お風呂から上がって深部体温が徐々に下がっていくタイミングで、自然と強い眠気が訪れます。これが良質な睡眠への入り口です。
また、理学療法士としておすすめしたいのが「炭酸入浴剤」の活用です。炭酸ガスが皮膚から吸収されると、血管を拡張させる作用があり、ぬるめのお湯でも血流促進効果を高めることができます。

6.食事での防衛策:内臓から熱を生み出す栄養学
体温を作り出すのは、主に「筋肉」と「食事(食事誘発性熱産生)」です。特に冬場は、内側から体を温める食事戦略が欠かせません。
ポイントは「陽性食品」と「タンパク質」です。
東洋医学的な考え方ですが、食品には体を温める「陽性」と、冷やす「陰性」があります。 陽性食品の特徴は、「冬に採れる」「土の中で育つ」「色が濃い」「水分が少ない」ものです。 具体的には、ニンジン、ゴボウ、レンコンなどの根菜類。カボチャ、生姜、ニンニク、ネギなどです。 逆に、夏野菜(トマト、キュウリ)や南国フルーツ(バナナ、パイナップル)は体を冷やす作用があるため、冬場は加熱調理をして食べることをおすすめします。
また、タンパク質は食事誘発性熱産生(DIT)が最も高い栄養素です。食べたものが消化吸収される際に発生する熱エネルギーのことですが、糖質や脂質に比べてタンパク質は約5倍もの熱を生み出します。 朝食に卵、納豆、魚、鶏肉などのタンパク質をしっかり摂ることで、午前中の体温上昇をサポートし、始業時からエンジン全開で動ける体を作ることができます。
おすすめの朝食メニューは「豚汁」です。根菜類(陽性食品)と豚肉(タンパク質、ビタミンB1)、味噌(発酵食品)が一度に摂れる、まさに寒暖差疲労対策の完全食と言えます。
7.運動での防衛策:自家発電できる体を作る
最後に、寒暖差に負けない体を作るための運動です。 筋肉は人体最大の熱産生器官です。筋肉量を維持・増加させることは、そのまま「冷えにくい体」を作ることに繋がります。
とはいえ、ジムに通う時間が取れない方も多いでしょう。そこで、オフィスや自宅で隙間時間にできる「ポンプ機能活性化運動」をご紹介します。
1.カーフレイズ(ふくらはぎの上げ下げ)
「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎの筋肉を動かすことで、下半身に滞った血液を心臓へ送り返します。 立った状態で、かかとを上げて、ゆっくり下ろす。これを20回繰り返します。デスクワークの合間や、コピー機の待ち時間に行うだけで、足先の冷えが改善されます。
2.肩甲骨回し
首や肩周りには「褐色脂肪細胞」という、脂肪を燃焼させて熱を生み出す細胞が多く存在しています。 両手を肩に置き、肘で大きな円を描くように、前から後ろへ、後ろから前へと大きく回します。肩甲骨がゴリゴリと動くのを意識してください。これにより褐色脂肪細胞が刺激され、体温が上がりやすくなります。
3.スクワット
体の中で最も大きな筋肉である太ももの筋肉(大腿四頭筋)を刺激します。 椅子の背もたれなどを持ち、膝がつま先より前に出ないように注意しながら、お尻を後ろに引くようにしゃがみます。1日10回でも構いません。大きな筋肉を動かすことで、効率的に熱を生み出すことができます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf
8.おわりに:寒暖差対策は最強のリスクマネジメント
寒暖差疲労は、個人の体質の問題ではなく、環境要因による身体的なダメージです。 「なんとなく調子が悪い」を放置せず、気温差という目に見えない敵に対して、論理的かつ具体的な対策を講じることが重要です。
企業においては、従業員の健康を守ることが、そのまま組織の生産性を守ることにつながります。空調の設定一つ、服装のルール一つを見直すことが、結果としてミスの削減や業績の向上に寄与するのです。
今回ご紹介した対策は、どれも今日から始められるものばかりです。 まずは「3つの首」を温めることから始めてみてください。そして、ぬるめのお湯にゆっくり浸かり、根菜たっぷりの食事を摂る。 こうした日々の積み重ねが、寒暖差に負けない強い心身を作り上げ、2026年の冬を最高の結果で締めくくる原動力となるはずです。
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